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   在宅医療専門

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往診日記DIARY

2.思いがけないカンファレンス

 

「患者にどこまで伝えるのか」終末期医療におけるデリケートな問題のひとつである。現実に、医療者と家族だけで情報を共有する場面は少なくない。病院で普通に行われる医療者と家族との面談、実はそのセッティングが在宅では意外に難しい。患家で、患者と家族をセパレートすることが結構大変なのだ。苦労した揚句、家族への重要な説明を玄関先の立ち話で済ましてしまうこともまれではない。

Aさんは60才台の男性、進行癌だが出来る限り自宅で過ごしたいと希望されている。病状はいよいよ厳しくなり、ある日看取りに向けてのカンファランスが患家で行われることになった。家族の意向もあり、Aさんにはその旨を伝えていない。私は静かに玄関のドアを開け、Aさんの寝室の前を素通りして家族やスタッフの待つ居間へと向かった。襖を開いた瞬間、予期せぬ光景に思わず息を飲んだ。なんとAさんがど真ん中に座っているのである。かすれた声を絞り出すように「先生、遅い時間にすみません」。彼は家族を代表して挨拶した。私が頭に描いていた面談のシナリオは一瞬にして崩れた。しどろもどろの病状説明で、結局、話す側にも聞く側にもよくわからないカンファランスになってしまった。

帰り際に奥さんが玄関先まで見送ってくれた。申し訳なさそうに「本人には内緒にしていたのですが、ちょうど居間に入ってきて、まさか家族だけでとは言えなくて・・・」と苦笑。核心部分だけでも奥さんに伝えようとしたところ、またまたAさんが子どもに両脇を抱えられてその場に登場。笑顔で「今日はありがとうございました」とその日のカンファランスを締めた。

自分の知らないところで企画された自分のためのカンファランス。偶然参加する羽目になったAさんは、それでも一家の主人として懸命にその場を仕切った。彼はどんな思いで私たちを見つめていたことだろう。

 画 植田映一 尾道市向島在住

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