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   在宅医療専門

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往診日記DIARY

3.春の香り

 

寒かった今年の冬も終り、ようやく春本番を迎えた。とは言っても、花粉症の私にとってこの時期はまだまだ冬の延長。心から春を感じることができるのはもう少し先になりそうだ。

さて、この季節になると思い出す患者さんがいる。春は行事が多いが、とりわけ自営の方にとって気になるのが確定申告であろう。小さな食堂を営んでいたOさん。体調がすぐれず店をたたんだ。ある日往診でのひとこま。テレビが確定申告のニュースを伝えていた。Oさん夫婦となぜか「相続税」の話になった。いつもドライな奥さん、「うちは相続税の心配がないからよかったね」。それに対しムッとした顔でOさん、「お金はないけど、わしはわしの生き方を息子たちに相続する」。「Oさん、ステキ!!」同行したスタッフから拍手が沸いた。「うちはそんなもんいらんよ」と奥さんには一笑されたが、まじめにこつこつと一家を支えてきた仕事人Oさんならではの名言だと思った。

日本人にとって、春と言えばやはり桜である。以前、緩和ケア病棟で担当したKさん、桜のように美しい人だった。「せんせい、念願の花見に行ってきました。今年は散っていく花びらの11枚がとても愛おしくて・・・」。ともに涙ぐんだ。

Kさんはその1か月後に、Oさんは半年後にそれぞれ旅立っていった。数年前に出会った二人の患者さんとのやりとりが、今年も春の香りとともに甦って来る。

間もなく桜の季節。往診の合間のプチ花見は在宅医にとって貴重な楽しみのひとつだ。マスクとティシュを手離せないが、今年も花見ができる喜びをかみしめたい。


  画 植田映一 尾道市向島在住

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