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往診日記DIARY

31.原監督に会いに行こうツアー 2013 秋

9月の3連休の中日、福山医療センターの緩和ケア研修会を抜け出して向かった先はある神経難病の患者さん宅。人工呼吸器を装着して2年。ほとんど外出の機会はない。熱烈なジャイアンツファンの彼に、長年の夢だった原監督との対面を果たすチャンスが巡ってきた。その日、マツダスタジアムで行われるカープとのデイゲームの後、原監督がある会合に出席するとの情報をもとに『原監督に会いに行こうツアー 2013 秋』が計画された。もちろん会えるという保証はない。メンバーは彼と家族、それにボランティアを加えた総勢7名。カープファンの私は、複雑な心境ながら彼の主治医としてこのツアーに参加した。

天候はあいにくの台風。東京からの新幹線は大幅に遅れているにもかかわらず、私たちの乗車する「さくら」は福山駅を定時に出発した。新幹線の車窓からマツダスタジアムの電光掲示板が見える。50でカープがリード。初めてのCS出場を目前にした大切なゲーム。私は内心ほっとしながら、一方でカープが大勝すると原監督の機嫌を損ねるのではと気をもんだ。

広島市内のホテルで待機すること2時間、原監督が会場に到着したとの知らせが私たちの控室に飛び込んだ。メンバーに緊張が走った。皆、黙々と移動のための準備を急いだ。そして、会場へ。原監督の姿が目に入った。周囲には大勢の人だかり。できるだけ原監督の目を引くように、いつもの倍の酸素ボンベ、吸引器を動員し重症感を演出した。車椅子の彼は勿論ジャイアンツのユニフォーム。人工呼吸器のアラーム音も消さずに鳴り響かせた。閉会間際、関係者の配慮もあり原監督の視線が私たちに向いた。監督自ら歩み寄り、彼の手をしっかり握りしめた。「どちらからですか。よく来てくれましたね。大変だったでしょう」。監督の言葉に、彼の顔は涙でしわくちゃ。その日のジャイアンツはカープ相手に010の完敗。でも、そんなことを微塵も感じさせない原監督の素敵な笑顔。私もカープファンであることをしばし忘れ、そのオーラに酔いしれた。

 画 植田映一 尾道市向島在住

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