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往診日記DIARY

34.忘年会の夜の出来事

 
 忘年会シーズン真っ盛りの12月のある夜、私たちのクリニックも賑わう街に繰り出すことに。幸い在宅患者さんの状態は落ち着いていて、まったりと1年の疲れを癒すことができた。「酔い覚ましにコーヒーでも」と思って覗いた次の店で、また美味しいビールと出会う。日付が変わり席を立とうとしたその時、私の携帯電話が鳴った。ドキッ。ある患者さんの奥さんから、「主人が息苦しそうなのでちょっと診に来てくれませんか」と往診依頼。処方しておいた頓服をとりあえず内服してもらうよう伝え、タクシーを呼んだ。

途中コンビニに立ち寄ってマスクとブレスケアを購入。患者さん宅でタクシーを降りた。聴診器や血圧計など診察道具は何ひとつ持ちあわせていない。もちろん、薬や注射もない。勇んで駆け付けたものの、体ひとつで何ができるだろう。気を揉みながらドアフォンを押した。すると奥さんが出てくれて、「今夜はお楽しみのところ申し訳ありません」。すでにバレテいる。「電話の向こうから皆さんの楽しそうな声が聞こえたから」。

心配しながら部屋にあがると、ご主人が笑顔で「先生、今日は忘年会と知らずごめんね。頓服がよく効いて楽になった。でも、来てもらってホッとしたよ」。こちらもホッとした。その日は、幸い問診だけで事足りた。私はほろ酔い状態で往診することになったことを詫びた。

奥さんが熱いコーヒーを淹れてくれた。大の酒好きだったというご主人が、息をヒーヒーさせながら昔の武勇伝を聞かせてくれる。奥さんも懐かしそうに会話に加わった。夫を指差しながら、「先生も飲みすぎるとこうなりますよ」。ご主人も思わず苦笑い。奥さんのその一言は、ややボーとした私の頭に妙に心地よく沁み込んでいった。

  画 植田映一 尾道市向島在住

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