「延命治療についてどう思いますか」。
唐突に尋ねたのがいけなかったのか、次の往診の際「1週間眠れなかった」と患者さんから苦情をいただいた。
終末期医療に関するリビング・ウィル。本人の希望しない無意味な延命処置をさける、その人らしく最期を過ごす、人としての尊厳を保つなどその意義は大きい。住民に書式を配布する自治体もあり、リビング・ウィルの普及に向けた取り組みは徐々に広まりつつある。医療機関や介護施設でも、入院や施設入所の際に患者や家族の延命治療に関する意向を文書で求めるところが増えている。
ところが、実際に在宅医療の現場でその作業を進めようとするとなかなか一筋縄ではいかない。患者さん側からすると、延命治療が必要になるような場面を想像できない、人工呼吸や心臓マッサージ、胃瘻などの医療処置が理解しにくい、「無意味な延命処置」といってもはたして何が意味があって、何が意味がないのかよくわからないなど様々な問題が浮かんでくる。延命治療の定義もあいまいで、特に高齢者の場合、広くとらえると治療のすべてが延命治療になってしまう。点滴もしてもらえないのか、との不満も聞こえてきそうだ。
自分や家族の死をみつめることは決して容易なことではない。心の準備も必要だと思う。リビング・ウィルは時間をかけてゆっくり取り組むべき課題。結論を急ぐのではなく、一人ひとりの人生の歩みや死生観を踏まえ、患者さんと家族、そして医療者がいっしょになって考えていく、まさにその過程が重要なのだとあらためて気付かされる。
画 植田映一 尾道市向島在住
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