在宅医療専門

　
「こんにちはー」わたしの訪問診療はたいていこの挨拶から始まる。「先生、今日は元気ないねー」と患者さん。それもそのはず、つい今しがたパトカーのお巡りさんに停められたのだ。15年ぶりにいただいた違反切符、元気があるはずがない。それでも気を取り直して診察を開始したが、「気にしなさんな、誰にでもあることじゃけえ」終始患者さんから慰められる展開。帰り際には「先生、車の運転には十分気をつけなさいよ」とありがたいお言葉、締めは「やっぱり先生は笑顔でないと」。

わたしは2010年長年勤めた病院を退職し、福山市に在宅医療専門のクリニックを開業した。勤務医の頃から在宅医療に関心があり、外来、入院診療の合間に患者さんのお宅を訪問した。入院していた終末期のがん患者さんが家に帰ったとたんに食欲が出てきたり、痛みが和らいだり、「家」には不思議な力があると思う。少しでも多くの患者さんが自宅で安心して療養できるようお手伝いができればと願っている。

在宅医療に欠かせないのは「笑顔」と「明るさ」そしてもうひとつ「安全運転」であるということをあらためて感じた一日であった。多くの患者さんはわたしたちスタッフの笑顔を楽しみに待ってくれている。今日は笑顔を届けられなかっただけでなく逆に患者さんから精一杯の励ましをいただいた。「お大事に」の代わりに「ありがとうございました」とお礼を言って患者さん宅を後にした。

　　画　植田映一　尾道市向島在住