6月のある土曜の午後、私のクリニックがカフェになった。名付けて「在宅ケアカフェ」。
市民の皆さんと在宅ケアを考える集いというと真面目に聞こえるが、訪問看護師がウェートレス、訪問薬剤師がナビゲーター、そしてエプロン姿の私がマスターという少し滑稽なカフェ。初めての試みだ。
第1回のテーマは「在宅よろずボランティア」。高齢社会にあって老・老介護は当たり前、認知症の夫(妻)が認知症の妻(夫)を世話する認・認介護も珍しくない。医療・介護スタッフだけでこうしたお年寄りを支えるには限界があり、ボランティアの協力が不可欠だ。
以前、このコーナーに登場した「菓子パンの大好きなおばあちゃん」。気ままな一人暮らしをこよなく愛した。やがて衰弱が進み、救急車で病院に運ばれた彼女は、涙ながらに「死んでもいいから家に連れて帰って」。私には返す言葉が見つからなかった。彼女はそのまま病院で最期を迎えることに。
「住み慣れた家で最期まで過ごしたい」。多くのお年寄りのささやかな願い。ボランティアへの期待が高まる。巡回、見守り、話し相手、外出の支援、さらに音楽、囲碁・将棋、生け花などの特技を生かした支援・・・。ちょっとしたお手伝いが高齢者の生活を支え、そして彩りを添える。
参加者から市民目線の貴重な意見をいただいた。「ボランティア自身が楽しめることが大切」。「まずはマスターから率先してボランティア活動を」。テーブルが沸いた。
コーヒーの香りとジャズの甘い響き。その日満席のカフェは心地よい熱気に包まれた。
市民と私たちスタッフとの交流から、新しい発想や生き生きとしたアイデアが生まれることを期待したい。
画 植田映一 尾道市向島在住
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