在宅医療専門

　

「往診の範囲はどこまでですか」とよく尋ねられる。「芦田川より東側の福山市内です」とお答えする。それが結構広い。現在、北は駅家町の服部大池をさらに北上したところ、東は岡山県との県境付近のいずれも山里まで往診に出向いている。

駅家の患者さんは70歳代の女性、がんを患っておられる。初回往診では申し訳なさそうに「遠いところまですみません」それでも「水が美味しくて、春は桜がきれいで、初夏にはホタルが飛んで・・・いいところですよ」と土地の自慢も忘れない。これまで4回訪問した。確かにのどかでいいところだ。往診車から眺める桜は素晴らしかった。もうすぐホタルの季節。すべての往診が終わって暗くなったころに伺う約束をしている。新しい患者さんやご家族との出会いもさることながら四季を患者さんといっしょに感じられるのも在宅医療の楽しみのひとつだ。

県境の患者さんのお宅は人家が途絶えてさらに細い道を奥に進んだところにある。80歳代のやはり女性で、進行性の神経疾患のためこのところ息苦しさが強くなり一日おきに往診に伺っている。発語がかなり困難になってきているが、私が訪問すると満面の笑みで「お・か・え・り」と言ってくれる。帰り際に「今度いつ来ましょう」と問うとまたニコッとして「あ・し・た」と答えてくれる。その何気ないやりとりに癒される。

田舎の家には都会の家にないどこかほのぼのとした空気が漂っている。道中やや時間はかかるが、その先に往診を待ってくれている患者さんがいると思うとありがたい。今日も新緑の山々を眺めながらカントリーロードを走る。「芦田川より東側の福山市内」は診療範囲として確かに広すぎるし曖昧だが、しばらくこれでいこうと思う。

 

　　画　植田映一　尾道市向島在住