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   在宅医療専門

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中国新聞連載

オレンジ色の糸

私の仕事は「在宅医」である。往診車を走らせ、患者さんのお宅を回る。頑張って回っても17-8件。病院に比べると、随分のんびりした医療現場である。

今日は、日曜日。予定の診療は入っていないが、ある高齢の患者さんから往診依頼があった。朝からお腹が痛くて、食事が摂れないとのこと。末期がんのご主人を、同い年の奥さまが自宅でお世話されている。お守りに、と処方しておいた医療用麻薬が効いたらしく、私が到着した頃には症状はほぼ落ち着いていた。

奥さまが「よいしょ」の掛け声とともに、お茶を運んでくれた。ご主人にも笑顔が戻ってきた。数十年にわたる家族の長い歴史を、ふたりで冗談をまじえながら話してくれた。奥さま自身も決して元気とは言えないが、ご主人の意向を汲み、最期まで自宅で看るつもりだという。

テーブルのうえに、長さ2mほどの編み物用の糸が置いてあった。夜、奥さまはご主人のベッドの横に布団を敷いて休む。「お父さんに何かあった時、気付かなかったらいけないから」と、ご主人の手首と自分の手首をその糸で結んで床に入るそうだ。いわゆる緊急用のナースコールである。でも、そのためだけではない。「あの世でもいっしょにいられますように」との願いを込めた「赤い糸」。さすがに「真っ赤だと恥ずかしいのでオレンジ色にした」と奥さま。オレンジ色の糸で手首と手首を結んだふたりの姿を思い浮かべる。ほのぼのとしたその情景に、「生・老・病・死」の暗いイメージはない。

このシリーズでは、在宅医療の現場から人生の最終章を見つめてみたい。


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