一人暮らしのお年寄りが増えている。私の『顧客』にも一人暮らしや高齢者世帯が目立つようになった。在宅医療は支えてくれる家族の力に頼るところが大きい。患者さんへの手当と家族への支援が私たちの大切な仕事だと思ってきた。家族と良好な関係ができれば在宅医療は半分成功したようなものとたかをくくってきたきらいがある。そんな安易な考えが吹き飛ばされる事態がおこった。
高級マンションの1室で暮らすAさん。家族は離散してしまい、一人暮らし。身寄りがない。癌の末期で、食事が摂れなくなったと往診依頼があった。普通に入院を勧めたが、「絶対に入院はしたくない。最期までここにいる」。彼は在宅療養を宣言したのだ。
一人暮らしの患者さんの場合、病状が悪化すると入院をお勧めするのがこれまでの自然な流れであり、多くの患者さんはその流れに従ってくれた。ところが高齢化が急速に進むなか、本人が望む、望まないに関わらず、一人暮らしのお年寄りが自宅で最期を迎えるケースは確実に増えることが予想される。
一部の先進地域を除いて、在宅医療は一人暮らしの患者さんを自宅で看取る力をまだ持っていない。介護保険もそこまで想定した制度ではない。行政や民生委員、ボランティアなどと連携して、地域ぐるみで高齢者世帯を支える仕組みを早急に作っていく必要性を痛感する。
今日Aさん宅を訪ねた。彼が栄華を極めたバブルの頃の話をしてくれた。窓から広がる美しい夜景。彼はかつてその中心にいた。「さびしい。ほんとは入院した方がええんじゃろうけど・・・」。目にうっすら涙を浮かべた。患者さんにはそれぞれの人生があり、事情がある。それを支える私たち『在宅』の力はまだまだ未熟だと感じた。
画 植田映一 尾道市向島在住
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