「一人暮らしのおばあちゃんが弱っている。受診を勧めたけど、てこでも動こうとしない」。困り果てた近所の人から往診の依頼が入った。
半年前までは元気に畑仕事をしていたが、この1〜2カ月急に姿を見かけなくなったため、心配した振興区長や民生委員、近所の人たちが訪れたところ、家の中は大変な状態になっていた。人一人分のスペースを残して、衣類や食べ残しなどゴミの山。その中でおばあちゃんは全身真っ黒になって寝ていたという。「病院に行こう」と勧めたががんとして動かない。近所の人たちが毎日交代で訪問し、食事の差し入れや身の回りの世話を続けた。その都度受診を勧めるのだが「わしゃ行かん」。次第に食事にも手をつけなくなり、衰弱が目に見えて進んできたため、私のクリニックへのSOSとなった。
私が往診に伺った日も、おばあちゃんの家の周りには近所の人が集まり、心配そうに様子を見守っていた。区長さんが「明るくていいおばあちゃんなんです。どうか助けてやってください」。残念ながら、診察を終えた私の頭の中に入院以外の選択肢は思い浮かばなかった。やんわりと病院への受診を勧めたが、案の定「どこにも行かん」と険しい表情。説得を諦めてよもやま話をすること30分、素敵な笑顔が見られるようになった。チャンスとばかり「ちょっとだけ病院に行ってみよう」と話したが、貝のふたを完全に閉じる結果に。結局、救急隊の力を借りて搬送することになった。
もう少し発見が遅れていたら、おばあちゃんは「孤独死」していたかもしれない。その命を救ったのはまさに地域の絆。「また元気になって帰って来んさいよー」近所の人たちが笑顔で救急車を見送った。福山に、こんなにも暖かいコミュニティが存在することを再認識した貴重な往診だった。
画 植田映一 尾道市向島在住
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