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   在宅医療専門

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往診日記DIARY

16.イケメン医学生

 

 医学部の5年生が、毎月一人ずつ在宅医療の実習に訪れる。昔に比べて女子学生の比率が高いことに驚く。そんな中、キラリ輝く男子学生がいた。いわゆるイケメンである。

その日、認知症グループホームの往診に彼を同行した。入居者のほとんどは女性。彼を見てしきりに笑顔で話しかける人、握手を求める人、照れて近付けない人、そわそわと歩き回っている人など入居者の反応は様々。明らかに、普段の私への接し方とは違うのだ。悔しいけれど、彼女たちは私とイケメン医学生の違いを正しく「認知」しているらしい。彼とともに診察した。みんないつになくいい表情。普段無口な人が、イケメン医学生に対して自然に自分の思いを表出した。いつもはスパッとはだける胸をそっと手で覆う仕種もいじらしい。彼女たちが背負っている「認知症」という重い荷物の隙間から、本来の姿が少しだけ垣間見えた気がした。診察を終えた私たちを、彼女たちは温かく見送ってくれた。

これからの在宅医療はがんの終末期と認知症への対応が大きな課題と言われる。今日のグループホームでの小さな発見が認知症ケアのヒントとならないだろうか。彼とそんな話をしながら私のクリニックに戻ったところ、女性スタッフの様子がいつもと違う。グループホームのおばあちゃんたちの反応と全く同じなのだ。

2週間後、再びグループホームを訪れた。入居者にプラスの変化を期待したが、そんなにうまくいくはずはない。そこには、良くも悪くもいつもの彼女たちがいた。イケメン医学生の話をしても誰も覚えていない。一抹のさびしさを感じながらクリニックに戻ったところ、スタッフは異様な盛り上がりよう。「来月はもっとイケメンが来るらしい」。学生実習はどうやら私たちのクリニックに大きな恩恵を与えているようだ。

 画 植田映一 尾道市向島在住

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