この秋、私はエンディングノートを書くことにした。これまでの生い立ち、友人や知人の情報、リビングウィル、葬儀の方法など、少しずつ時間をかけて記していこうと思う。昨年「エンディングノート」という映画が公開され、話題を呼んだ。定年退職後にがんを宣告された男性が、自らの人生を総括し、家族にあてた思いや願望をエンディングノートに書き残す姿を軽妙なタッチで綴ったドキュメンタリー映画である。
尊厳死やリビングウィルなどの概念の普及に伴い、それらの内容を含むエンディングノートの作成が静かなブームとなっている。書き始めるきっかけは人それぞれ。小さな町工場を地域のトップ企業に育て上げたある社長は「私たちの葬式は数で評価されてしまう。弔問客の数、国会議員の弔電の数、泣いてくれる人の数・・・。死んでまで見栄を張るのはもうたくさん」と葬儀方法をエンディングノートの第1章とした。
認知症で胃ろう栄養となった父親を長年自宅で看ている女性は「ゼッタイ、胃ろうはイヤ!」という一念からエンディングノートを書き始めたという。胃ろうは、患者と家族が正しく理解し、自ら望んで実施されるのであれば本来有用な治療法のはず。患者の意思が分からないまま、医療者と家族の価値観や都合で決められてしまうことにやるせなさを感じる。「毎日与えられた任務を忠実にこなしてくれる胃ろうを、父はどんな思いで見ているのだろう」。彼女の目に涙が浮かんだ。
エンディングノートの形式や内容は基本的に自由。私はノートの表紙に幼い日の自分の写真を貼り付けた。今あらためて見ると、意外にかわいいものだ。秋の夜長、ゆっくりと人生をふりかえってみるのも、またひとつ。
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