大河ドラマ「八重の桜」が始まった。「幕末のジャンヌ・ダルク」新島八重が主人公。その中でたびたび登場するのが、会津藩に古くから伝わる教え「ならぬことはならぬ」である。その言葉に凛とした響きを感じる人も多いだろう。
ある70歳代の男性。神経疾患のため歩行が極めて困難となった。妻との二人暮らし。妻も膝を痛め治療中である。患者は毎日のように転倒する。そのたび妻は1時間かけて抱き起こす。ガラスを割って大量に出血し救急搬送されたことも。夫が倒れる鈍い音を聞くと、妻の動悸が始まる。「夜が来るのが怖い」とも。「入浴を兼ねて」と勧められたデイサービスも「血圧が150を少し超えたために、今日も風呂に入れてもらえなかった」と嘆く。妻は心身ともに疲弊。在宅介護は限界に達している。離れて暮らす長男は見かねて介護施設への入居を勧めたが、本人は「大丈夫」と言って動こうとしない。妻も「私が頑張らなければ」と在宅介護を貫く姿勢。患者の思い、家族一人ひとりの思い、それぞれに抱える事情・・・。なかなか療養の方向性が見出せない。ケアマネの計らいで、少しずつ在宅支援の形が整ってきたものの、安心というにはまだ程遠い。夫婦どちらかに何かが起こるまで、じっと見守っていくしかないのだろうか。
「なるようにしかならん」。在宅医をしている長男の口からポツリ。これは、実は我が家の話である。
「ならぬことはならぬ」と「なるようにしかならん」。語感はやや似ているものの、その言葉を口にする人の気概や覚悟は正反対。どんな苦境にあっても諦めず、勇気をもって生きる会津の人たちに、私たちが学ぶことは多そうだ。
画 植田映一 尾道市向島在住
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