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往診日記DIARY

25.101歳の旅立ち

101歳の患者さんが亡くなった。

クリニックがオープンして間もない頃に始まったその患者さんとの付き合いは約3年に及んだ。彼女のお決まりの挨拶は「いつも遠いところをありがとうございます」。クリニックから患家までは歩いても12分の距離。「すぐ近くですからご心配なく」。「あっ、そうですか」。次の時も、その次の時も、またその次の時もこの会話が続いた。寸分違わぬこのやり取りに、やがて不思議な安堵感を覚えるようになった。

長生きの秘訣を何度か尋ねたが、いつも笑って終わりだった。彼女の話を聞いていると、100年を生きたという認識はどうもないらしく、このところずっと20歳か30歳くらいを生きているようだった。私は介護保険の主治医意見書に「認知症」という病名を記しながら、何とも表現しがたい違和感と1世紀を生きてきた彼女に対する畏敬の念から、迷った挙句その病名を削除した。

彼女の細い体のどこに100年を生きる力が宿されていたのだろう。今の私を彼女の人生に重ねるとちょうど折り返し点。仮にあと50年の命を与えられたとしても、それを全うするのは体力的にも、気力的にも至難の業。

彼女の一生を大河ドラマに例えるなら、私は最終回の、しかもほんの数分に立ち会ったようなもの。彼女の小さな体が生きた人生の大きさをあらためて思う。


診療を終えて帰る私たちに、彼女は必ず「車に気を付けなさいよ」と笑顔で声を掛けてくれた。そしてその時も、彼女らしい笑顔の旅立ちだった。




 画 植田映一 尾道市向島在住

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