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往診日記DIARY

44.父の手術

 

 私の父が神経難病のため歩けなくなって、2年近くになる。昨年、介護施設に入居した。「息子は、在宅、在宅と偉そうに言いながら、自分の親を家でみない」。そんな冷やかな声が、どこからか聞こえてきそうだ。

その父が、先日、緊急手術を受けた。

「手術して命は助かっても、その後、人工呼吸器を外せなかったり、透析が必要になるかもしれません。どうされますか」。医師の説明に思わず天を仰いだ。言われてみると、ずしりと重い。

これまで、父と延命治療について真剣に語り合うことはなかった。「怠った」という方が正しいかもしれない。何度か話を向けてみたものの、いつの間にか他の話題にすり替えられてしまう。私が患者さんに「ご家族でじっくり話し合うことが大切です」と言っても、説得力を欠くのは当然である。

続いて、看護師からの病歴聴取。病気については答えられるが、苦手な食べ物、信仰、入れ歯の有無・・・となると、正直わからない。父のことをあまりに知らない自分にあきれてしまう。看護師は私に聞いても埒があかないと思ったのか、「お母様に確認しますね」と、その場を後にした。

手術は無事終了。ほっとした矢先に「せん妄」という意識障害が現れた。絶飲食にもかかわらず、「アイスを食わせ」、「小豆を食わせ」。さらに「殺される」。

いろいろ考えさせられる1週間だった。今では、何もなかったかのように好物のアイスクリームを頬張る父。何年か、何十年か先の自分の姿を見ているようでもある。

治療に当たってくださった医療スタッフの皆さまには心より感謝。



 画 植田映一 尾道市向島在住

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