一昔前までの在宅介護は、嫁がその家のお年寄りを看るのが一般的だった。今ではすっかり様変わりし、息子が親を介護するケースも少なくない。
ある父と息子。昔から父は酒癖が悪く、酔っぱらって暴れては家族を困らせた。そんな父に嫌気のさした息子は、早くに家を飛び出した。
ある日、その息子のもとに「父が脳卒中で倒れた」との連絡が入った。病院にかけつけた息子は、何十年か振りに老いた父と対面。病床の父はうっすら照れ笑いをうかべた。一命を取り留めたものの、半身不随という重い後遺症が残った。一人暮らしの父を介護施設でみてもらうよう勧める親戚もいたが、息子は自分のマンションに引き取ることを決める。そこから、父と息子の失われた時間を埋める作業が始まった。
ともに荒削りな性格の二人。怒鳴り合う声が外まで聞こえた。身体が思うようにならない父と、初めての介護に苛立ちを募らせる息子。ケアマネは、デイサービスやショートステイの回数を増やし、二人が煮詰まらないよう配慮した。半年ほどたった頃、少しずつ二人の表情は和み、雪解けの気配が感じられるようになった。
そんなある日の往診。父から「息子には感謝している。そろそろ施設に入りたい」。ようやく在宅療養が軌道に乗ってきた矢先の一言だった。
この世では実現しないと諦めていた息子との邂逅と和解。それがかなえられたことが父には何より嬉しかった。息子に介護されるのは正直いって窮屈だし、これ以上息子に迷惑をかけるわけにもいかない。今までのように気ままに暮らしたい。それが偽らざる父の心境だった。
その気持ちは、息子に通じた。満ち足りた表情で談笑する光景は、やはり親子。『流星ワゴン』でよく流れた「わしとお前は朋輩じゃ」というフレーズが頭に浮かぶ。
やや不器用で生真面目な父子二人の「在宅」は、その目的を見事に果たし幕を下ろすことになった。
〒721-0973
広島県福山市南蔵王町6丁目27番26号ニューカモメマンション102号室
TEL 084-943-7307
FAX 084-943-2277