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   在宅医療専門

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中国新聞連載


エンディングノート

高齢者の10人に1人は認知症といわれる。在宅医療は、認知症の患者さんや家族と正面から向き合う場でもある。

80歳代の女性。小学校の教師を定年まで勤め上げた。明るくて思いやりのある人柄は多くの生徒に慕われた。家族が「どうもおかしい」と気付いたのは8年前。近くの脳外科で認知症と診断され、内服治療が始まった。その後も症状は進行し、家の中のいたるところで放尿。嫁に「財布を返せ」と怒鳴るようになった。介護施設への入居も計画されたが、本人が「どこも悪くない」とかたくなに拒否。ケアマネージャーの勧めもあり、私のクリニックに訪問診療の依頼があった。私たちにできることは限られている。家族のご苦労には頭が下がる思いがした。

1年が経過し、少しずつ彼女の体に変化が現れた。歩くのが難しくなり、やがて寝たきりに。食べ物がなかなか喉を越さず、むせて熱が出ることも多くなった。

このまま在宅か、それとも入院か。そして、栄養補給をどうするか。家族と医療・介護スタッフによる話し合いが行われた。そこに登場したのは、彼女が元気な頃に作った1冊のエンディングノート。これまでの人生の歩み、これからの生き方などが丁寧に記されていた。

中でも私たちの目を引いたのが三つの要望。@できれば家で最期まで過ごしたいA胃瘻や呼吸器などの延命治療は要らないBしんどくないようにしてほしい。そして最後のページは、ひと際大きな文字で「家族のみんな、ありがとう」と締められていた。

そこには、まぎれもなく彼女の本来の姿があった。彼女を変えてしまった認知症という病気を恨めしく思いながら、エンディングノートが今の彼女をしっかり守ってくれている、そんな気もした。

 


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